入学前教育 大学苦心…推薦・AOの高3“長〜い春”

現地実習 ネット教材「学力と意欲維持」


 入試シーズンを前に、一足早く推薦入試やAO入試などで入学が決まった高校生を大学が指導する「入学前教育」が熱を帯びている。大学全入時代を迎え、半数は一般入試を受けず、学力や意欲の不足から大学で順応できない若者が増えたためだ。かつては待つだけだった大学が、フィールドワーク、インターネット教材、予備校との提携など、あの手この手で対策に知恵を絞っている。

 大阪市浪速区通天閣の近く。大阪女学院大(大阪市中央区)のAO入試に合格した12人が、行楽客らであふれる新世界の路地を、興味津々で歩いていた。「最初はエッフェル塔と凱旋(がいせん)門を組み合わせたデザインやったんです」「ええー」。案内役の落谷正教・アドミッションセンター長の説明に驚きの声が上がる。

 同大学は入学前教育として英語などの課題に加え、昨年から地元・大阪学を導入。キャンパスで歴史や産業などの講義を受けた後、現地に出て実情を学び、来年3月にそれぞれ成果を発表する。参加者の友末涼香さん(18)は「教科書を読むより分かりやすく、将来の同級生とも話せて刺激になる」。落谷さんは「学力も大事だが、行動を起こして自ら考える力が必要だ」と強調する。

 ITに親しんだ高校生だけに、ネットを使った在宅での双方向教育も盛んだ。近畿大は2004年にAO入試合格者らを対象に、教育開発の専門会社「アートスタッフ」(大阪市北区)のシステムを導入。今年度は12学部、計約3000人に、12月から来年3月まで英語、数学など計6科目の「宿題」を提供する。

 問題はアニメを盛り込むなど退屈させない工夫をし、能力別に3段階を設定。アクセス時間や苦手の把握などを集約し、アクセスの少ない生徒には電話やメールで相談に乗り、学習意欲を保つよう働きかける。

 大手予備校「東進ハイスクール」などを運営する「ナガセ」(本社・東京都武蔵野市)は、講義を収録したDVDと記述問題の通信添削を提供する。今年度は全国の国立、私立の約17%の115大学の入学前教育を代行。約100人の大学生らが「大学スタッフ」として、高校生に電話でアドバイスする。

 近年、入学後の成績と、入学前教育での習熟度との相関が高いことが関連学会などの報告で分かってきた。初年次教育学会会長の山田礼子同志社大教育開発センター所長は「入学前からケアを手厚くして高大の接続がスムーズになれば、学生生活の充実や中退率の低下につながる」としている。
(2009年12月9日 読売新聞)